今回はオリエントBambino(バンビーノ)シリーズの中からローマンインデックス、クリームダイヤルのSAC00009N0をご紹介します。
これから詳しく解説してまいりますが、まさに「足ることを知った大人の時計」という印象の時計で、大変好感が持てます。
私自身、もう4本持っていますし、普段使っている時計ですので、本当に愛着がわいています。こういう良い時計がもっと生まれることを望みますし、他のメーカーも、オリエントに学ぶことは多いのではないでしょうか。
正統派の実用機械式時計オリエント・バンビーノ
こちらのバンビーノは海外で販売することを目的に生産されている時計です。ですから日本国内の正規のカタログには掲載されていないシリーズです。というより、オリエントというメーカーは海外での販売をメインとしているメーカーと言っても差支えありません。そういった意味では国内カタログに掲載されているモデルより、このバンビーノのような海外専用モデルのほうが本筋と言っても良いかもしれません。
海外ではそれこそ電池の入手に時間がかかるような場所もあるわけで、そういった地域では電池などの外部エナジーに頼らずスタンドアローンで動く機械式は重宝されるわけです。そういった地域でも売れる商品ラインが、このバンビーノなのです。
つまり、この時計は機械式ではあるのですが、趣味の機械式ではなく、実用の機械式なのです。となれば当然すべての要素が「必然」で組み立てられているはずです。この観点からこの時計を見てみると、いろいろ気が付くことがあるのではないかと思います。
日本製で言うと、セイコーの実用機械式時計「セイコー5シリーズ」なども同じ事情から海外専用モデルとなっています。
海外専用モデルとはいえ、こうした時計をAmazonなどで日本国内でも入手することができます。この写真のオリエント・バンビーノもAmazonで買い求めましたが、普通に17000円前後で売られていますし、タイムセールを時々しますので、そういう時は12000円前後で求めることが可能です。これは驚異的なコストパフォーマンスです。安価なことは実用時計では大切です。趣味ではないのです。実用ですから、極論を言えば使えることが大切であって、値段は安いに越したことはありません。とはいえ安かろう悪かろうなら困るのですが、さすがオリエントです、このバンビーノは悪くないどころか名品と言える品物に仕上がっています。
この時計のすごさは、そのクオリティの高さです。もちろん実用品ですから安価にするために簡略化している部分はありますが、その簡略化のセンスが本当にバランスに長けているので安っぽさがありません。何せこの時計は純粋な日本製、本物の国産品なのです。日本のモノ造りの思想のようなものがすごくよく表現されていると思います。一言で言うと、「安価ではあるが安物ではない」ということです。これを質実剛健というのでしょう。実用時計を突き詰め、無用な華美な装飾を省くとこうなる、そんな考え方が見て取れます。
正確無比な質実剛健高性能ムーブメント
ムーブメントはCal.F6724。見る限り46系という1971年からある古いムーブメントの派生形だと思われますが、このムーブメントの優秀さも、この時計をここに取り上げる一つの理由です。
とにかく姿勢差に強く正確です。先進国においてはクオーツどころか電波時計が普及している今の時代に機械式に正確さをどこまで求めるかと言う議論はあるでしょうが、このモデルは極論を言えば原子時計からの電波信号に頼れない未開の地でも安心して使え、なおかつ正確無比であるということが求められる「海外販売用実用時計」なのです。当然電池や電子部品に頼らずに完全に機械的な動きで時を計るということが求められます。そうであるなら正確無比な機械式ムーブメントは大変価値のあるものです。
通常機械式時計というものは出荷段階での調整は、かなりプラス方向、つまり進む方向になっており、買ったそのままの状態ですと日差でプラス10秒くらいのモデルが多い中、このバンビーノはとても正確でピッタリです。今のところプラス2秒/日で安定しているようです。
また、姿勢差に強く腕に着けている時もそうでない時も、この歩度が安定しているのです。つまり歩度そのものが一定で、ムラが無いのです。これはこのムーブメントの基本性能の確かさを物語っています。
実は少し前まで、バンビーノに搭載されているCal.F6724にはハック機能がありませんでした。しかしマイナーチェンジによってハック機能が搭載され、いよいよこのシリーズの人気も高まっているという状況です。
外装もまた質実剛健
外装もすごいです。この時計は裏蓋がスケルトンではありません。すごいと言っても、クオリティが超絶すごいという意味ではなく、考え方や哲学がブレていないという意味でのすごさです。
最近の機械式時計は裏面をスケルトンにすることが多いのですが、中のムーブメントをわざわざ見せるとなると、仕上げをして「魅せるための化粧」をしなければなりません。ですので最近の機械式時計は大抵の場合、ムーブメントに仕上げを施して「見せる努力」をしています。
とはいえ、オリエントはバンビーノを完全に実用時計と割り切っているようで、裏蓋をスケルトンにせず、あえて見せないという選択肢を選んだのです。これは割り切りとしては正しい姿勢ではないでしょうか。見せるなら化粧が必要。化粧には金がかかる。もし見せることが実用時計として無駄だとしたら、あえてそこは捨ててしまおう。これは正しいロジックです。しかも裏蓋のスケルトンをやめてしまえば、防水性や防塵性という観点からもコントロールが楽になります。つまり、このバンビーノは趣味時計ではないのです、これは完全に「実用品」なのです。これが日本国内で売られている多くの「趣味用」の機械式時計との大きな違いです。
風防はガラスです。ガラスといっても、これは多分クリスタルガラスのようで、とても見やすく傷もつきにくいです。私は実のところこの時計をしていることが多いのですが、結構無造作に使っていても風防に傷がつくようなことはありませんでした。
インデックスはアップライドのようです。高価な時計ですとインデックスとして植える数字やバーをダイヤモンドカット等で角を出して立体感を強く見せるような工夫をしますが、これはそこまでしていません。しかし、浮き上がったインデックスは視認性が高いです。視認性が高いことは実用時計であるなら大切なポイントですので、限られたコストの中で、メーカーとしては立体的な見やすいインデックスを実現しているということなのでしょう。
オーバークオリティな加工はしないが、実用時計として「視認性の高さ」という理想は満たしたい。そういうメーカーの「こだわり」と「良心」が見えるのです。
ステンレスのケースもよくできています。鏡面加工をラグとベゼルに行い、側面はヘアライン加工。セイコーの時計などでもよく見るオーソドックスな仕上げですが、ムーブメントにコストがかからないクオーツならいざ知らず、この価格帯の機械式時計では、なかなか難しいのではないでしょうか。安価ゆえに使える素材なども限られるのでしょうが、それでも手抜きを感じないケースです。
ベルトもなかなかどうして、良いものです。しっかりしていて安さが見えません。表面にコーティング加工が施されていますが、これの耐久性もいたって頑丈。はがれません。もう二年ほど使っていますが、痛みにくいベルトです。ちなみにラグの幅は21mmですから換えベルトの選択肢も限られるので純正ベルトが良質なのは大歓迎です。
オリエントバンビーノは買いか?
明らかに買いです。機械式時計の入門モデルとしてもおすすめですし、足ることを知った方なら、これに落ち着く可能性が高い時計です。何せ実用時計としてのあるべき姿を追及したような時計ですので、昨今の「イマドキ流行の趣味用機械式時計」とは一線を画する機能美があるのです。無駄が無いというか、華美さのない、押し殺したようなつつましさを感じます。控え目な存在感は、昨今の機械式時計の流行から生まれた「いかにも機械式アピール」の強い時計とはまったく違います。何せ実用性を追及した結果の必然から「たまたま機械式になった時計」ですので。
とはいえ賛否両論な部分もあります。それは大きさで、実は少し大きいのです。最近の流行なのか、ケース径が40.5mmあります。個人的には微妙に大きく感じます。しかしその大きさがまたポイントで、程よく目立ちます。目立つので、注目度も高く、実はこの時計に関して声をかけられたことが一度や二度ではないのです。これもまたこの時計の魅力かもしれません。というより、オリエントの時計はなぜか声をかけられるのです。独特の存在感があるのでしょうね。
素敵な時計を見ると、必ず「無粋なことをうかがいますが、これはいかほどしましたか?」と値段を聞かれます。「2万円でおつりが来ますよ」と言った時の皆さんの表情からは、驚きと喜びが感じられます。つまり、「無理せず買える」と皆さんに思ってもらえるのです。これは時計趣味の輪が広がるので、大変歓迎すべきことではないでしょうか。