シチズンQ&Qファルコン~QA00-301

シチズンQA00

時計趣味の方も色々で、高額な時計を多数収集しているようなヘビー級の方から、それこそ私のような「廉価品~中級クラス」を中心に観ているような方まで、結構幅が広いのがこの世界です。
とはいえ、私にとって時計というのは高くて数万円という品です。それらは作り手であるメーカーにとってはあくまで工業製品であり、芸術品ではありません。
もちろんメーカーが芸術品や工芸品として生み出しているような時計のすばらしさは私には理解できなかった過去がありますし、また理解する資格もないのでしょうが、とはいえ、これは私の持論なのですが、芸術というのは、自分で「作ろう」と思って作るものではなく、他人が認めてはじめて本物と言えるのだと思います。そして、安価な時計にも、私の基準で言うところの芸術は確かに存在します。作っているメーカーさんは工業製品のつもりでまじめに作っているのでしょうが、その中から光るものを拾い上げて「これが芸術だ」と認定する人がいても良いのです。

人類のインフラと言われたムーブメント搭載

例えばこのブログを立ち上げた当初に書いたシチズンQ&QファルコンD026などは、もう本当に素晴らしい時計で、たかだか1400円程度の時計ではあるのですが、その完成度と言ったら、もう本当に素晴らしいものがあります。なぜ私がこうまでD026を高く評価するのかは、その時のページをご覧いただければ、納得いただけるものと思います。
また、D026を含めたシリーズとしてのシチズンQ&Qには、私が言うところの機能美、加工美、背景美のうち、機能美と背景美の二つが備わっているものが特に多いのです。その理由というのは簡単で、シチズンはミヨタというチャンネルから世界中に自社製の良質なムーブメントを供給しています。しかもその中でも安価なクオーツムーブメントに至っては、もうそれこそ世界の時計の半分は中を開ければシチズンミヨタなのではないか?と思えるほどの普及率を誇ります。その様相は時計の専門家にして「人類のインフラ」とまで言わしめるほどなのです。
さらにシチズンは、その人類のインフラとまで称されるムーブメントを使った安価で高性能な時計を多数リリースしているのです。これは言い換えれば「人類のインフラ搭載マニュファクチュール製品」ということです。これは素晴らしい「背景美」ではないでしょうか?単なるマニュファクチュール製品なら吐いて捨てるほど存在しますが、「人類のインフラ搭載」という冠が付くのは、シチズンの時計だけです。そしてその「安価かつ高性能」という機能美と、「人類のインフラ搭載マニュファクチュール製品」という背景美の二つを備えたシリーズが、このQ&Qなのです。
時計に貴賎なしとはよく言ったものです。観方を変えれば、安価な時計にも見どころはたくさん存在します。私にとって、こんなにも素晴らしい時計を提供してくれているシチズンという会社は、まさに神様のような存在なのです。

さて、シチズンミヨタのクオーツムーブメントが、人類のインフラと言われているという話はいたしましたが、それは多分、ピンスポットで言うなら、「シチズンミヨタCal.2035」のことでしょう。もう10年以上も前の記事に「総計30億個以上を製造」と書いてあったので、多分ですが2018年末時点で、すでに40億個を超えているのではないでしょうか。そしてそのシチズンミヨタCal.2035を搭載した、最もスタンダードな時計が、このQ&QファルコンQA00-301ではないでしょうか。
価格はAmazonで1280円。笑ってしまうほど安価な時計なのですが、しかし、この時計からは、実にいろいろなことが推測できて、面白い時計なのです。私がどこに面白みを感じたかをこれからご説明してまいりたいと思います。

地味だが良い時計という印象

シチズンQA00外観

まず、この時計を一見したときの印象です。一言で言うと、「ちょっと地味だが良い時計」というところです。飾り気はありませんが、必要にして十分な機能は満たしています。
ケース径は33mmと、伝統的な男性用ドレスウォッチの標準的サイズです。今の流行からするとかなり小さいのですが、この時計は控えめなデザインを狙っていることは明白ですからこれで良いのでしょう。
そもそも安価な時計ですから、大きなケースにしてしまうと、この値段ではある種のアラが目立ってしまいます。私はこのサイズで良いのではないかと思っています。
ダイヤルは白、同一デザインでほかの色のモデルは無いのかと思って探したのですが、今のところ見当たりません。ダイヤルの質感が低いので、大きなサイズにするとダイヤル盤面の仕上げ方法を考えないと見れたものではないのですが、このサイズなら白のフラットな盤面もまずまず許せるというものです。
インデックスはバーインデックスです。ちゃんと立体的に加工されていて好感が持てます。ダイヤルが白の単調なものですから、インデックスがプリントだったりすると、これまた見れたものではありません。
針はかなり頑張ったと思います。バトン型やペンシル型のように先端がとがった形状ですが、しかし先端に向けてゆっくりと細くなっていく独特の形状で、剣型とでもいうか、そういう形をしています。太さがあるので視認性は優れています。
実は安価な時計というのは針が細いのが普通です。トルクの無い安価なクオーツムーブメントを使うと、どうしても細い針にならざるを得ないのです。この針は多分ですが、かなり薄いのではないでしょうか。山なりの加工がされていたら光の反射でもっと視認性が高くなるのですが、そこは値段が値段ですから許されるでしょう。
白いダイヤルに銀の針という組み合わせは、完全にモノトーンの世界ですからコントラストが無いと溶け込んでしまって時間が読み取りにくくなります。ところが針を太くしたことによって、良好な視認性を獲得しているのです。こういうところは、安価ながらもさすがに時計屋の仕事ですね。「いつもは他のものをデザインしているんだけど、たまには時計でもデザインしてみるか」というノリで実に多くのデザイナーズブランドが乱立している昨今ですが、こういう時計には、一見してオシャレな外観をしているのですが、ダイヤルと針の組み合わせが悪く視認性に難ありの製品が結構存在します。
ベルトは合皮ではありますが黒のレザーベルトです。合皮のベルトというのは最初から柔らかいので、変な本革より装着感が良いことがあります。このベルトも悪くありません。質感に関しては好みもありましょうが、多少テカリが強いように個人的には思いますが、値段を考えると言えません。

間に合わせで買ったら意外と良かった??

さて、この時計の概要について触れてきましたが、考察に入りましょう。
スタンダードな形状の33mm径のこじんまりとしたケース、そしてこれまた控えでありながらも、一応立体的に盛り上がっているバーインデックス、そして合皮ではありますが黒のレザーバンド。これはもうメーカーとして「安価なドレスウォッチ」を狙って企画したとしか思えません。(見ればわかるか・笑)

QA00箱入り

では一体なぜ1000円時計でドレスウォッチなのでしょう。安価な時計というのは一般的にデザインで冒険するものです。というのも、安価だから買う側もデザインのフィーリングさえ合えば面白がって買ってくれます。これが高価な時計ですと買う側も保守的にならざるを得ないので、質実剛健なデザインの時計が多くなります。1000円というとバイトの時給ですから、もっと冒険したデザインで良いだろうと考えるのが普通です。とはいえそれは日本のような先進国の中での話です。このQ&Qファルコンは海外販売用の時計ですので、1000円でも貴重な国もあることでしょう。そうした立場で考えると、一本だけ時計を買うなら、こうした保守的なドレスウォッチになるのではないでしょうか。
ところがこんな安価かつ保守的な時計がAmazonのレビューを見ると、日本国内でも結構売れているのです。一体どうしてでしょう。
Amazonの商品レビューを見ると、どうも普段はもっとポップな時計を使っている人たちが、冠婚葬祭の時にドレスウォッチが必要になって、間に合わせで買うような買い方が多いように見受けられました。確かに白ダイヤルの伝統的ドレスウォッチというのは、スーツで仕事をする人でさえも、あまり使わないように思います。どうせ冠婚葬祭のような特殊な時にしか使わないのだから、高価なドレスウォッチはいらないが、しかし一本は必要。そんな場面はかなり多いはず。そこでこういう時計で間に合わせてしまおうと考えても不思議ではありません。
こうした隙間をシチズンが狙っていたかどうかはわかりませんが、少なくとも、こうした安価なドレスウォッチは日本国内においても一定の需要があるということは、私にとっても発見でした。
また、間に合わせでこの時計を手にした方々のAmazonでのレビュー評価はすこぶる高い。安価なので贔屓目な目線になるのかもしれませんが、「安いので期待はしていなかったが、使ってみると案外良かった」ということなのでしょうか。ベルトを換えて楽しんでいる人も相当数いらっしゃいます。安価なものでも気に入れば大切に使う。大変良いことです。

熟成されつくしたCal.2035

ミヨタ2035搭載の記載

さて、裏蓋を眺めると「2035」と刻印が入っています。2035はこの時計に搭載されているムーブメント、Cal.2035のことです。
このムーブメントを搭載している機種はいくつも持っていますが、時間がたてばもちろん狂います。とはいえ、どの個体も必ず進む方向に狂うのです。これは大切なことです。遅れる方向に狂うと、遅刻してしまいますからね。
クオーツムーブメントは、クオーツ素子に電圧をかけて振動させ、その振動を数えて時間を測るのですが、気温によって振動数が多少変化するため、どうしても狂うものなのです。その狂いを想定して、少し進む方向に誤差をわざと作るわけですが、誤差を大きく取りすぎると月差で見た場合大変な狂いになってしまいますし、誤差を少なくすると、気温によっては遅れる方向に狂ってしまう可能性がある。このあたりのさじ加減は、それこそ膨大な経験値から導かれているのだと思いますが、それがとても上手いという印象なのです。
こういう工業製品としての公差の部分まで熟成されているのは、さすが「人類のインフラ」と言われるだけのことはあります。公称月差±15秒ということですが、必ずと言って良いほどプラスの方向に誤差が出る。よくわからない(ということにしておく)メーカーのクオーツだと、遅れの方向にずれるものも存在しますからね。

それと、Cal.2035は安価ではありますが金属製で分解整備もできるそうです。もっとも部品で入手しても600円そこそこのムーブメントを分解整備する必然性があるのかは疑問ですが。

シチズンQ&Qファルコン~QA00-301は買いか?

冠婚葬祭用のドレスウォッチというのはたまにしか使いませんし、安価なこの時計を一本持っていたら良いのではないでしょうか。
私は礼服用というのではなく、趣味として買いましたので、ベルトが純正だと完璧におじさん時計ですから、ベルトを換えて使っています。ラグ幅は18mmですので、ベルトの選択肢が多く、選び放題です。18mm幅のベルトって、一番多いのではないかな。

ベルトを換えたQA00

この時計、軽いし、厚みも8ミリですから、本当に着けているのを忘れるくらいです。また、安価ですから気兼ねせずに使えるし、私は個人的にはこういう時計が好き。着けたまま洗車したり、掃除したりできるので、面倒がありません。