セイコー・ドルチェSACM171

ドルチェ年差クオーツモデル

今日はちょっと毛並みの違う時計をご紹介しましょう。セイコーのドルチェSACM171です。
私はこういうタイプの時計は他に持っていません。クオーツだし、いわゆる王道路線のドレスウォッチで超薄型。
私は、仕事では機械式、クオーツはプライベート用と決めているので、クオーツは気軽に使えるカジュアル時計しか持っていません。こういう、かしこまったクオーツは私的には使い道がまったく見えないわけです。
じゃあなんで買ったのよというと、答えは簡単、あまりに美しかったから。

小さいがとても上品かつ良質

今の時計って、大きすぎる感じがするんです。もちろん大きい時計は時間も見やすいので実用的です。しかし目立ちすぎるんです。ところがこのドルチェをご覧ください。小さいし薄いし、自己主張があまりない。目立たないのですが出しゃばらないし品があるのです。
それでいて仕上げは最高。時計としての完成度がハンパないです。

薄い時計ドルチェ。

ケース径 33.5 mm
厚み 5.3mm
バンド幅 17 mm
重量:約26g

ムーブメント クオーツCal.8J41(公称年差±10秒)
風防 人造サファイア(内面無反射コーティング)
ケース ステンレス(ダイヤシールド加工)
発売日 2014年4月

持ってみて驚くのはその軽さ。その重量は何と26グラム。軽いにもほどがある軽さです。キズ付防止のダイヤシールド加工が施されたケースの直径は今の流行からすると小さいのですが、実際着けてみると、これはこれで必要にして十分なサイズなのです。見にくくもないし、かといって変な主張をしない。どんなスーツにも合いそうです。さらに言うと、何より薄いことがビックリです。あまりありませんよ、こんな薄い時計。
決して目立ちませんが、本当に高性能かつ美しい時計だと思います。

高精度な年差クオーツムーブメント

年差クオーツで狂わないドルチェ

ではその高性能というところを見てみましょう。これに搭載されているムーブメントはCal.8J41です。
びっくりするのがその精度です。多くのお客さんが驚いたと思うのですが、大抵Amazonから時計を買うと、届いて箱を開けた瞬間、秒針や、下手をすると分針を合わせる必要があります。ところが、この時計は箱を開けた瞬間、一秒も狂っていなかったんです。正直初めての経験なので驚きました。その精度は何と年差で±10秒以内。月差10秒ではないですよ、年差10秒です。いわゆる「年差クオーツ」ってやつですね。

さらにクオーツのくせにトルクが強いのでしょうね、太くて見やすいドルフィン型の針を使っています。こんなに太い針を動かしているのに電池寿命は普通に3年です。これは驚異的なエネルギー効率です。針の素材や加工で軽い針を作っているのか?それとも驚異的にエネルギー効率が高いのか?さすがにクオーツのパイオニア、セイコーさんの仕事です。

極めてノーブルかつ色の無い外観

この時計は、ある意味「色を感じない」のがカラーです。普通の銀色のケースだし、普通の黒い本ワニ革(カイマン革)だし、ダイヤルは白く針も銀色。まったく白黒の世界です。
それに余計なことは何一つしていないです。「新しい提案」とか「キャッチーな企画性」なんてものはまるで無し。「腕時計という記号論」をそのまま形にしたような普遍的デザインです。たぶん100年たっても、こういう時計は世の中にいくつかあるはずですよ。そういう普遍的なデザインです。
とはいえ、細かいところを見ていくと、実に秀逸なデザインワークが施されていることに気が付きます。だから美しく感じてしまう。

セイコードルチェ~上品な仕上げ

余計な装飾をしていないすごさ

時計を最低限度の要素で組み立て、それぞれの要素が高次元で調和を保っている。これが出来ている時計って、よくよく見るとあまりないのです。
私は時計は素人ですが、モノ作りのプロです。映像作品のプロデュースやディレクションを仕事にしているのですが、私らの仕事にも共通することが多いです。同じモノ作りですからね。
良い映像作品というのは、余計なことをしていないものです。最近はアプリケーションが色々ありますから、似非カッコいい映像なんていくらでも簡単に作れちゃう。でも、それって飽きるんですよね。反面、余計なことをせず真面目に作っている映像というのは、見ていて疲れないし最後までスッと見れる。さらに言えば生真面目に頭を使って作っている映像は心に沁みる。そういうものなんです。要するに基本に忠実に仕事をする。これが一番。
時計も同じようなところがあるのかもしれません。時計を構成するパーツっていうのは、それほど数が多いわけではありません。だから「個性」を出そうと、色を使ってみたり、形でオリジナリティを演出しようと試みたり、いろいろな試行錯誤が今も行われています。ところがこの時計は全く「個性を出そう」なんてことは考えていないように見受けられるのです。
デザイナーなら、誰でも「これ良いでしょ?」と言いたいもんだから、何かとんがった「個性」を出そうとするもんです。ところがこの時計には、とんがったところがまるで無いんです。視覚的な色も白黒の世界なら、その企画性にもカラーを感じません。
ではカラーが無いからダメかというと、むしろ逆です。個性なんかクソ喰らえ!おこがましいと言わんばかりに、徹底的に個性を捨てつつ、残った要素の中で最大限のクオリティを追及しているのです。

時計は時計屋さんの時計が一番

例えば、ダイヤルと針のコントラスト。先ほど言ったようにこの時計は白のダイヤルに銀のドルフィン針です。一見して視認性に問題が出そうに思いますし、腰かけで時計を造っちゃいました的なデザイナーさんの時計なんかを見ると、白ダイヤルに銀の針の時計なんか、見れたものではない。ダイヤルの白に針が溶け込んでしまって、まったく時間がわからない。
ところがこのドルチェSACM171は白ダイヤルに銀針なのに見やすいんです。

視認性の高い針とダイヤル

針の金属のチョイスや形状と表面の仕上げ、そして太さと、様々な要素がからんでいるのでしょうが、さすがに時計屋の仕事だなと感心せざるをえません。要するに、色を使わずに立体感や質感、そして視認性のためのコントラストを演出しているのです。
多分ですが、ダイヤルの仕上げを少し間違っただけで視認性が悪くなってしまう。だからこの時計を造った人は、様々なパターンを合わせながら試行錯誤したはずです。つまり、生真面目かつ地味な仕事をシッカリとしているのです。
要するに、この時計のデザインは視認性や装着感といった実用的なデザインに徹しているんです。その結果としてオーソドックスな時計の形そのものに落とし込んでいるのです。
さらに個々のパーツの完成度が極限のレベルです。年差クオーツの高精度、優れた視認性、軽さ、装着感、どれをとっても落ち度が感じられません。時計を知りつくした時計屋が作った時計だということが本当に良くわかります。
個性的デザインとやらで「どうだ!俺って天才じゃね?」と舞い上がっている時計が山のようにある中、この時計は輝いて見えるんです。

ドルチェSACM171は買いか?

買いです。事実私は買っている。日本庭園のように無駄のない美しさ、年差クオーツの高精度、軽さ、装着感、どれをとっても高度にバランスした名作だと思います。コストパフォーマンスはすごいものがあります。
また個性や流行を徹底排除した普遍的デザインですから、古くなりません。いつまでも使える時計です。ムーブメントさえ動けば100年たっても恥ずかしくない時計であることでしょう。
最近は様々なデザイナーさんが、ミヨタやETAの安価なムーブメントを使って中国で組み立てるような時計をたくさんリリースしています。どれも個性的なデザインで、それはそれで良いでしょう、私もそういう時計をたくさん持っていますし。しかし、本当に時計の機能に徹した時計を造るとなると、やはり「時計屋」の仕事にはかなわないんだなと、このドルチェSACM171を見ると、心底感じます。
この時計には作り手の自信を感じるんです。時計メーカーとしてのセイコーの高度な基礎力みたいなものを感じるのです。流行も無視して個性を徹底排除してもなお、売れる一級品を作れる自信がなかったら、これは作れないです。
さらに言えばセイコーというメーカーの良心を感じます。見やすいし、軽いし、装着感が良く、狂わない。これってセイコーみたいな自社で全部作れるマニュファクチュールでないと難しいんではないかな。
ということで、こいつは明らかに買いです。