knot(ノット)機械式時計AT38

KnotAT38

さてさて、ちょっと前に話題をさらった「日本製」を前面に打ち出したノット(knot)というメーカーの時計です。このメーカーの時計についてはユーザーの立場から語られたウェブページが少ないので、ここにご紹介をしたいと思います。今回はノットの数ある時計の中でも一番マニア心をくすぐりそうな、機械式時計のAT-38です。
ザックリ言うと、すごく良く出来ている時計で、関心しました。5万円というプライスですが、値段を超えた価値は確かにあります。機会があれば一度お店に行って実物を見てみることをお勧めします。良い買い物ができるかと思います。

私が思う時計の美しさというのは、「機能美」、「加工美」、歴史を含めた「背景美」というところでしょうが、その三つが揃っているのも、この時計の良さです。

エタポンならぬ「良心的なミヨポン」

まずこの時計のムーブメントについてです。搭載されているのはシチズンミヨタのCal.9015です。
私が「新しいなあ」と感じたのは、その売り方です。時計を最初から最後まで作ることができる、いわゆる「マニュファクチュール」ではないメーカーというのは、自社でムーブメント開発ができないことを何かコンプレックスにでも思っているのか、さも自社で開発したかのように売るのが普通です。しかしこのノットは、最初からムーブメントがシチズンミヨタであることを公表しています。それどころか、「シチズンミヨタさんなら安心でしょう?」と言わんばかりに商品の魅力として謳っているのです。さらに言うと、ケースは林精機さん、ダイヤルはセレクトラさん、ベルトは○○さんと、すべて公表した上に、直営店舗にはパーツ製造に携わった各社の紹介を写真入りで展示しています。これは徹底している。すごすぎます。でも、安心ですよね、確かに。

ノットというブランドはまだまだ「ブランド」というには弱い。悪い言い方をすれば「どこの馬の骨かわからん会社」です、つまり歴史を含めた「背景の美しさ」がまだ備わっていないのです。その立ち位置をよく心得ている。これは「自分が見えている」という意味において素晴らしい。だからこそ、時計パーツ製造において過去に多大な実績のある各パーツ業者さんの実績を借りているわけですね。これら大メーカーの下請を長年してきた時計パーツのプロたちの持つスゴみのようなものを、自社の時計に取り入れることに成功しているのです。こうしたいわゆる「歴史的背景」の作り方は、いわゆる日本庭園で言うところの「借景」とでも言うか(笑)

ミヨタ9015ムーブメント

ムーブメントの話に戻しますが、このAT-38に搭載されているシチズンミヨタの9015ムーブメントは、取り立てて何か加工しているとか、機能を追加しているとか、そういうことはありませんが、元々とても良いムーブメントなのでわざわざいじる必要もありません。
9015はシチズンミヨタが2010年に発表したものですから比較的新しい設計のムーブメントです。世界的に見てもその基本性能は競争力があります。直径26.5mm、厚さ3.9mm、8振動/秒、パワーリザーブ40時間。コストはわかりませんが、セイコーで言えば4L、ETAだと2824-2、セリタですとSW300あたりがライバルでしょうか。

ミヨタCal.9015 ETA Cal.2824-2
8振動 8振動
25.6mm径 25.6mm径
3.9mm厚 4.6mm厚
パワーリザーブ42時間以上 パワーリザーブ38時間

特に厚みが3.9mmしかないので、ライバル搭載機より0.5mmは薄く時計を造ることができるでしょう。ここはデザイン的に自由度が広いので、ETAなどのライバルと比較しても有利な点です。
毎秒8振動のハイビートなので精度はすこぶる良好です。私が日常で使っている限りは日差は+3秒から-3秒くらいに収まっています。運針もなめらかですし美しい。数十年ぶりにシチズンミヨタが社運をかけて造ったムーブメントですからね、悪いはずがない。

ちなみにシチズンのクラブ・ラメールなどに搭載されている82系の安価なものはハック機能が無かったりと、かなり機能が限定されていますが、この新型ムーブ9015はそのようなことがありません。
どっかの時計サイトのレビューに、「15000円程度のセイコー5やシチズン、オリエントと性能差は無いでしょう」と書かれていますが、何を言っているのか(笑)良質なムーブメントで定評のあるオリエント・バンビーノあたりと比べるのであれば比較になるとは思うのですが、安価で機能的にも制限があるセイコー5と比較しちゃ違うだろうと思います。セイコー5の7S26あたりとの比較は無意味。7S26は手巻きすら省略しているのだから。それに質感は圧倒的にノットの5万円が上。見ればわかることがわからない人が、時計を語るのっておかしい時代ですね。だからウェブは信用できないのです。誰でも書けてしまうから。

ザラツ研磨のケース

ノットAT38ケースザラツ研磨

このAT-38、ケースはかなりなものです。研磨にザラツ研磨をしているということですが、研磨の良さ云々というより、なんというか全体的なイメージとして、角が出ている感じがとても好印象です。金属加工の良い見本のようなケースで金属の美しさをストレートに表現できているように思うのです。
高価な時計と安価な時計の一番の質感の違いは、ケースの立体感です。最近はやりの丸いケースはキズが目立ちにくいので実用上は良いのですが、いかんせん角が無いので立体感に乏しいのです。AT-38は、いわゆる「おやじ時計」のデザインを今流にアレンジしたようなもので、面ごとに仕上げを変えて、鋭角的な際立った立体感を演出しています。この立体感とビシッと決まった角が描く線のコントラストが本当に美しいと思います。
腕時計というのは小さいものですので、その小さいものを加工するというのは、実は大変なことなのです。

ダイヤルの繊細さ

インデックスはアップライド。角がしっかり出たパーツを植え付けてあります。角が出ているパーツは、それだけで美しい加工美がありますね。
線が細いので、これを植え付けるのは大変だろうなあとルーペでマジマジと眺めながら思ってしまいました。
38mm径のケースですので、ダイヤルも今の流行からすると少し小さい。小さいのですが、それが上品にすら感じてしまうのは、基本的な仕上げがしっかりしているからですね。
これだけ見ていると、「このサイズがもしかしたら一番良いサイズだな」と思えてしまうサイズです。

カラー展開は、ブルー、ホワイト、ブラックの三種類ですが、最近ホワイトの白を少し明るくしたのだそうです。私もその明るい白にひかれて、このホワイト(当ページの写真)を選びました。なかなか素敵な白です。透明感があって、陰影が美しく映えます。

ダイヤルを美しく見せるサファイア風防

風防の質感も良いですね。すごく良い。優等生な風防です。この単結晶サファイアの風防は透明感があり、コーティングもしっかりとしたものです。
抽象的な表現で恐縮なのですが、スッキリしているんです。
実はこの時計もそうですが、実売5万円前後の時計というのは、私は一番コストパフォーマンスに長けた価格帯だと思っているのです。その理由がこの風防素材です。
これより安価だとクリスタルガラスやミネラルガラスになるのが普通です。風防だけで時計は語れませんが、それなら少しお金を足して、サファイアクリスタルの風防を備えた時計を買うのも考え方としてはアリだと思います。

視認性の高い太い針も魅力

特筆すべきはダイヤルと針とのコントラストです。パールホワイトのダイヤルに銀の針、一見視認性を心配しますが、実は三色あるダイヤルのうちで、一番視認性が高いのがホワイトなのです。実際に実物を見ればわかります。不思議に視認性が高い。計算されつくしている時計です。
針は太く、機械式の良さが出ています。機械式はクオーツに比較するとトルクが強いのです。参考までにこのミヨタCal.9015のトルクをご紹介します。

秒針トルク Max 0.60μN・m
分針トルク Max 1.25μN・m
時針トルク Max 1.50μN・m

どうでしょうか?一般に安価なクオーツムーブメントですと、分針のトルクが0.35~0.50μN・mくらいが普通ですので、3倍は強いのです。
クオーツですと、電池の消費量を考えると、これが現実的なトルクということなのでしょう。それと比較すると機械式は太い針を動かすことができるので、視認性は一般的にクオーツより高くすることができます。これは機械式腕時計の最も大きな美点でもあります。
もちろんAT-38の視認性は期待以上です。

機械式AT-38は買いか?

買いです。シチズンミヨタの新型8振動ムーブメント搭載で、グランドセイコーのケースを作る会社がケースを担当している。まさにいいとこ取りの時計ですから。
まだ持っていないなら、ぜひ一本コレクションに加えておくことをお勧めします。ソツが無く、素敵な仕上げの時計です。値段相応というよりも、多分ですが倍の金額でもおかしくない時計だと思います。ものすごいコストパフォーマンスだと思います。